STEREO CLUB TOKYO

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カメラの箱詰

 生まれてこの方、大小取り混ぜて9回の引越をしてきた。その経験もあって、荷物を段ボール箱に梱包するのは結構得意な方だ。箱の中の空間に、無駄な空間ができないように荷物を詰める。パズルのような感覚で楽しみながらやることにしているのだが、数が多いとさすがに疲れる。その引越も、とうとう10回目を迎えることになった時の話。
 ステレオカメラのコレクションをしているわけではないのに、引越のたび、カメラを詰めた箱が増えている。一つずつ丁寧に梱包しながら、コイツはもうちょっと使ってあげればよかった、などと感慨に耽るのでつい手が止まってしまう。
 カメラというのは道具だから、飾っておいても意味がない。そんな風に僕は思っているので、長く使わないカメラがあるとかわいそうに思ってしまう。棚の後ろのほうに置いて忘れかけていた奴が「ここにいましたよ」と出てくる。どれも個性のある奴等。要らない奴なんて一つも無い。引越を機会に処分をするなんてかわいそうなことはできない。
 手塚治虫先生の漫画「どろろ」に、土中に埋められた小判が妖怪の姿になって現れる、というくだりがある。醜く恐ろしい、金小僧という姿になって現れるというもの。掘り出してまた、世の中で使って欲しいということで現れるのだ。
 カメラを棚の奥のほうにしまい忘れたことに気がついたとき、僕は決まってこの金小僧のくだりを思い出す。きっと、コイツだって使って欲しいと思っているに違いないのだ。忘れていてごめんね、と心の中でつぶやく。同時に、恐ろしい妖怪の姿で現れなくて良かったと思う。もし妖怪の姿になったら、カメラ小僧と呼ばれるのだろうか。ん?
 さて、引越と同時に日常の風景が変る。新しい風景から、新しい被写体が生まれる。しまい忘れていたカメラを整備して、新しい風景を撮ろう。11回目の引越まで、果たしてどんな作品ができあがるだろう。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年10月04日 10:00


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