STEREO CLUB TOKYO

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⑧セーヌを下る

 パリを流れるセーヌ川。地図で見ると、やたらと蛇行している。地上から見る分にはそんなに複雑な流れには見えないのだが。流れはゆっくり、ゆっくり。対岸は完全に護岸され、コンクリートで敷き詰められている。
 僕はコンクリートでできた水門など、人工的な水理構造物がちょっと苦手である。近寄ると吸い込まれそうに見えたり、もし水に落ちたら、奥のほうに脱出不可能な取水口があるとか変な想像をめぐらしてしまうのだ。
 そんなわけでダムの水門なんかは気味が悪くて、ステレオ写真を撮るなんてことをしても後で見る気にならない。だが、セーヌ川はその気味の悪さが無い。川が大きく、流れが緩やかだからだろうか。これは僕の主観かもしれないけど、水のある風景というのは人工物とのバランスを崩すと、言いようのない不安を内包したものになる気がする。
 さて、そんな話は後にして。クルーズする船に乗る機会があったので、その様子を紹介しよう。
 シテ島からやや上流に遡ったところで小さな船に乗る。時刻は既に日が傾き始めた頃。川下に向かって船はゆっくりと進む。向かう先には、太陽が低い位置に、オレンジ色の光を放ちながら輝いている。川面がオレンジに波打つ。
 セーヌ川にはいくつもの橋がかかっている。古い橋、新しい橋。どれも様々な造形がある。この下をくぐって行くが、光と影のコントラストが美しい。次第に対岸が薄闇に包まれてゆき、風景の細部が闇の中に沈んでゆく。この瞬間、水辺と周囲の造形がマッチして、絶妙のバランスが形成される。そう、魔法の時刻が訪れたのである。
 ようやくエッフェル塔の近くにたどり着いた時、周囲はすっかり闇に包まれた。それを待っていたかのように、塔のライトアップが輝く。この瞬間に出会えたことは、偶然にも船の出発が予定より遅れたことの賜物だった。(つづく)

セーヌの夕日2.jpg

セーヌの夕闇.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年02月23日 10:00


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