STEREO CLUB TOKYO

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マット・ブラック

 カメラに限らず、光学製品の内部にはツヤ消し黒色塗装が施してある。乱反射の防止である。黒い色というのはご存知の通り、全ての波長を吸収するから黒く見える。光が当たって、はねかえってこないから黒いのだ。だけど、黒い塗料をそのまま塗っても、角度によっては光を反射する。つまり、ツヤ。このツヤを消すには、細かい粒子を塗料に混ぜればいい。たぶん、塗膜の表面がミクロレベルでデコボコになるから、反射する光が小さくなるのだろう。
 僕は、カメラの修理で内部にツヤ消し塗装をするときは、プラモデル用の塗料を使っている。ツヤ消し黒とか、マット・ブラックと表示してあるものもあるが、いまひとつツヤ消しになりきらない。微粉末を混ぜると、とても良いつや消しになるので、僕はたいていこの方法を使っている。混ぜる微粉末はどんなものでもつや消しになるみたいだが、小麦粉なんかを使ったら後でカビが生えそうなのでやめておく。セラミックスの粉末があればベストだ。
 とはいっても、セラミックスの微粉末なんてなかなか手に入るものじゃない。だけどあるんだな。歯磨き粉だ。香料が入っていない、粉末タイプのものが一番いいんだけど、普通のチューブに入っているものでも大丈夫だ。にゅるっと出して塗料に混ぜてやるとちゃんとツヤ消しになる。ただし、塗料は水溶性のものにしておかないとうまく混ざらない。
 まあ、こんなハナシは参考程度にしていただいて。というのも、望遠鏡の修理で歯磨き粉を混ぜて塗装をしたときのことだ。面積が広かったのか、香りの強い歯磨き粉だったからか。修理は完璧で、星の像は見違えるほど良くなっている。星を観察していると、どこからともなくミントの香りがする。嫌いな香りではないけど、塗りなおすとこの完璧な光軸調整がまた崩れてしまう。というわけで、香りが抜け切るまで、香りを楽しみながら使わなければならない、ということになった。

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年01月27日 10:00

ハンドメイド・ストラップ

 ストラップを替えるだけでカメラのイメージは大きく変る。たとえば昔の一眼レフ。ちょっと大き目の望遠レンズを付けて、さらにモータードライブを付ける、こんなことをすると合体ロボットのごとく強靭なメカの雰囲気が放たれる。こういうメカロボに幅広のストラップを付けると「強いです感」が強調される。細いのを付けるぐらいなら、無い方がいい。
 こういった幅広のストラップをクラシックカメラに付けると、どうにもこうにも格好が悪い。料亭にジーンズをはいて行くようなものである。やはり、革製の細いストラップが一番似合う。金具は銀色。使い込むうちになじんでくる。
 リアリストのように、吊金具にある程度の幅がある環が付いているものは取り付けが簡単だ。だが、吊金具が特殊なものや、吊金具自体が無いものは困ったことになる。吊金具の無いものは、革製のカメラケースの方にストラップが付いているものが多い。それでも、たいていの場合は痛んでいたり、ストラップの交換が困難なつくりになっていて悩ましい。
 デュプレックス・スーパー120の吊金具は特殊で、釘の頭のような形をしている。これに合うものがなかなか無いので、自分で作ることにした。ストラップ本体は色違いの細革紐を三つ編みにし、扁平の帯を作った。この両端に丈夫な紐を輪の形で付ける。外れないように、縫い付けるようにして取り付ける。紐の輪には金属のチューブを差し込み、チューブを移動させることで輪の大きさを絞るようにする。釘の頭のような吊金具を、この輪で締め付けて取り付ける、というわけ。
 出来上がってみるとなかなかいい。紐を縫い付けたところは接着剤で補強し、飾り金具を取り付けている。もう一つ、ストラップが付けにくくて苦労していたのがベラスコープf40。この吊金具は穴が小さい。金属のリングを付け足すのも無粋だ。革でちょっとしたパーツを作ることで、デュプレックス用に作ったストラップが使えるようになった。工夫。工夫。

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年01月20日 10:00

散歩カバン

 撮影散歩の時には予備のフィルムと露出計も持ち歩かなければならないこともあって、まとめて全部、カバンに放り込む。だが、ちょうどいいカバンというものがなかなか無い。リアリストがちょうど納まるものはないものか。
 まだ平成になる前の大昔、アルミ製のカメラバッグが流行した。猫も杓子もアルミの箱をぶら下げている。写真部の中学生なら必ず持っていた必須のアイテムだ。これを持っているだけでカメラマンっぽい。踏み台にもなるから、これに乗って大口径の望遠レンズ付、モータードライブ付の一眼レフを構えるのがカッコイイのだ・・・そんな時代があった。
 僕はこのアルミのケースが昔からあまり好きじゃない。ゴツゴツして邪魔だし、重い。だいたい、そんなに頑丈な箱に入れなければならないような、ハードな使い方などしない。というわけで、お散歩カメラの相棒としては相応しくない。リアリストの専用革製ケース、こんな質感の小さなカバンがあればいいのに。
 そんな悩みを抱えながら、何かの文具を探しに銀座の伊東屋に寄った帰りのこと。近くにカバン屋さんを見つけた。いい雰囲気の品ばかり並んでいる。ふと見ると、お散歩撮影にちょうどよさそうなものがある。これがまた、リアリストを入れるのにちょうどよさそうな寸法だ。聞けば一点モノだという。だが、このときはリアリストを携帯していなかった。
 寸法を確かめる術がないのだが、自分の感覚がちょうど良いと感じる。感覚を信じて躊躇なく購入した。帰ってから確かめると、フィルムの箱が5個、ピッタリ隙間なく入る。この上にリアリストが丁度入る。最後にスタジオデラックスを乗せて、うまく蓋が閉まる。フィルムを3本抜いて、小さなストロボを入れることもできる。なんとこれもピッタリ。
 この店は銀盛堂といい、銀座の老舗で評判の店だと後で聞く。残念なことに、今は閉店されている。

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年01月13日 10:00

銘を入れる

 日本刀の刀身の、柄の部分には刀匠の銘が入る。硬い刀身に、タガネを使って銘を入れる。砂鉄から作った鉄の塊に、命を吹き込んだ鍛冶職人の、証というか、仕上げの仕事というか。なかなか深いものがあるよなぁ、と常々思っていた。日本刀は砥師や鞘などを作る職人たちの分業によって完成するわけだが、刀身には命を吹き込んだ刀匠が銘を入れるのである。
 ステレオ写真だって撮影者が命を吹き込み、ラボの職人が現像し、マウント師が仕上げをするという分業になる。まあ、現像以外は一人の仕事になるのかもしれないけど、完成した作品には銘を入れたい。そんな思いがあって、僕はマウントには自作したスタンプを押している。スタンプではなく、手紙に蝋でシールするときのイニシャルとか、落款を押すのもいいかもしれない。あるいは直筆のサインか。作品の題名とか、撮影年月日、ちょっとしたコメントなんかを入れるのもいい。
 ペーパーマウントに記入するとき、僕は鉛筆を使っていた。シルクスクリーンの版画なんかに入れられたサインも鉛筆だから、これをイメージしたのもあるけど、ペンだとインクが滲むことがあるからだ。今はマウントの紙質を選んで自作するから、インクが滲まない紙を選ぶことができるようになった。こうなると、万年筆で銘を入れたくなってくるのである。
 カメラと万年筆。男の趣味の王道の一角を占めるこれらのアイテム。ステレオ写真にして両者が交わるという事になった。万年筆というのも深い深い沼である。踏み入れるとなかなか抜け出せぬ楽しみが待っている。文章を書くには太字がよいのだろうが、マウントに銘を入れるのならばどんなペン先が合うのだろう。インクは何がよいだろう。あれこれ考えながら、手持ちの万年筆で銘を入れる練習をする。なかなかイメージ通りの文字にならないのだが。
 インクの濃淡が美しいセピアのインクなどないだろうかと探しながら、密かに美しい文字の練習をしているのである。

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年01月06日 10:00