STEREO CLUB TOKYO

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香る風

 エーゲ海に浮かぶたくさんの島々。この中にアトランティス伝説の起源ではないかといわれている島がサントリーニ島だ。三日月型の島と、火山の噴火口を持つ小さな島から成る独特の形は、素人目にも過去に大きな海底火山の噴火と隆起、沈降があったことが想像できる。実際、この島では古代の遺跡が今も発掘されており、火山活動が人々の生活に大きな影響を及ぼし、また大量の火山灰がその生活の痕跡を埋め尽くしてしまった歴史があることを物語っている。
 今は観光地として賑わい、美しい街並みは心和ませる。内湾は波も穏やかで、切り立った海岸沿いの丘には白とブルーで彩られた家々が並ぶ。島の外周にはビーチとレストランがあり、夏のバカンス時には世界中から観光客が集う。
 一方、島の中央から南は小高い山になっており、今は住む人もいないが、大昔に都市があったことを示す遺跡が残っている。曲がりくねった見晴らしの良い道を車で上ると、古代の遺跡が広がる場所に出る。石造りの住居跡や、階段、石畳、柱を立てていたと思われる窪みなどが無造作に残っている。一体、どのような生活がここで為されていたのだろうか。
 ここは島でも一番高い場所にあるため、島全体を見渡せる。にぎやかな街並みが小さく見える。日差しと風が強い。その風に乗って、独特のスパイスのような香りが漂っている。初めて出会う香りのはずなのに、どこか懐かしい。辺りを調べると、ここに点在する植物から香っているのであった。おそらく、失われた都市でもこの香りが漂っていたのであろう。
 なんという植物か街の人に聞けばわかるだろうと、一輪だけ折って山を降りた。だが、だれもその名を知る人はいなかった。帰国してから「カレープランツ」と呼ばれていることが分かったが、あの香りはカレーの匂いとは程遠い。遺跡の中で風の中に身を置いていると、古代の人々の賑やかな営みが聞こえてくる、そんな気がする香りなのだ。(つづく)

遺跡.jpg

サントリーニ2.jpg

▲ヨーロピアン改造リアリストで撮影
 手前にあるのが香る野花

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年06月23日 10:00


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