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主の刻印
初めてリアリストを手に入れたのは、銀座にあるとある中古カメラ店だった。そのときは、ステレオカメラを触るのも初めてであったし、ここまで古いカメラを操作するのも初めてだったのだ。だいたい、中古カメラ店に行くなんていうことがほとんどなかった頃のことだから、ショーケースから出してもらった時はどうしたらいいのか大いに悩んだ。
カメラの持ち方で、お店の人から「こんなトウシローに売れるかい」なんて思われるんじゃないかとビクビクだ。ファインダーを恐る恐る覗いたり、ちょっとダイヤルを回してみたり。正直言って、こんなカメラで撮影できるのかな?と思い始めてきたところ、お店の人がニコニコと説明してくれる。説明を聞いて、何とか使えるかな、と思い始めてきたのだ。
このときはリアリストにレンズがF2.8とF3.5のモデルがあることなんて知らなかった。店には両方置いてあったんだが、とりあえず安くてきれいな方のF2.8を見せてもらったのだ。買おうと決める直前に、F3.5の方を見せてもらおうとしたら、お店の人はF2.8のほうがいいよと言う。それで、初めて買ったのがF2.8だった。店の奥のほうからカメラケースとストラップを出してきてくれて、値段はそのままでおまけに付けてもらった。嬉しかったなぁ。
それにしても、なぜF2.8の方が安かったんだろう。前の持ち主の名前だろうか。カメラのトップカバーに刻印があった。“TOPHAM”と丁寧に刻印された文字は、買うときにはあまり気にしていなかったのだが。これが理由か。
前の持ち主は今頃どうしているだろうか。僕が手放した後は、一体誰の手に渡るんだろうか。この刻印を見るたびにそんなことに思いをめぐらせる。アラジンの魔法のランプのように、いろんなご主人様の手を渡ってゆくのだろう。この不思議な道具は、もう少し僕のところで召し使えて欲しいと思っている。磨いてやれば、魔法が現れるかもしれない。
投稿者 J_Sekiguchi : 2010年09月17日 10:00
タンポポの綿毛
昔々、シベリアでツングースカの大爆発と呼ばれる大事件が起きた。それは1908年のことだから既に100年をこえた昔のこと。日露戦争を終えた後の混乱した世の中で起きた、脅威の出来事だった。シベリアの密林の上空でとてつもなく大きな大爆発が起きたのだ。ロンドンでは地震計が振動を捉え、夜でも新聞が読めるぐらい空が明るくなったという。
半径50kmに渡る森林がなぎ倒され、大規模な森林火災が発生した。幸い、死者は発生しなかったらしい。想像を絶する大爆発にもかかわらず、調査団がその地を訪れたのは何年も経った後だという。調査団は隕石の落下と想定し、証拠となるクレーターと隕石の残骸を探したが、どちらも発見できなかった。原因不明の大爆発。いろいろな推測がされ、議論が重ねられた。今では、彗星が落下し上空でバーストしたものであろう、という仮説が有力視されている。
なんでこんな話をしているかというと、このときの調査団の映像が残されていて、ナショナルジオグラフィックのDVDとカール・セイガンのCOSMOS(これもDVDが出ている)で見ることができる。ここに、僅かなカットだが、調査員がステレオカメラを手にしているのが確認できる。昔のガラス乾板式のものだろう。一見、ローライドステレオのように見えるが詳細はわからない。当時の学術調査にステレオ写真が有効だったということが想像できる。
ところで、カール・セイガンのCOSMOSは今から20年以上前に日本語吹替えされ、TV放送もされた。全世界で人気となったシリーズで、懐かしいと思う人も多いだろう。残念ながら日本語吹替え版DVDはリリースされていないが、日本語字幕が入ったものが発売されている。改めて観賞していたらこんな映像があった、というわけ。著作権の問題もあるのでその映像は転用しない。かわりにCOSMOSのオープニングにも使われているタンポポの綿毛をご覧ください。
投稿者 J_Sekiguchi : 2010年09月10日 10:00
デルタステレオで撮る
以前に紹介したデルタステレオは廉価版ステレオカメラだ。レンズの焦点距離は50mmで、多くのステレオカメラが35mmであるからとても特徴的に見える。だが、このレンズは単玉メニスカスである。お世辞にもいいレンズとはいえない。フォーカス機構もなく、およそ3m先の被写体に焦点が合うようになっているだけなので自由度がない。シャッターも絞りも簡単な構造だ。そんなトイカメラのカテゴリーに入りそうなヤツなんだが、実際に使ったらこんな写りをしますという話。
このレンズはそれほど明るくない。たぶん、日中の屋外で絞りをなるべく絞って使うように考えられていたのだろう。屋内で使う場合は専用のフラッシュガンが取り付けられるようになっている。このフラッシュガンの取り付け方も変わっていて、三脚ネジを使ってボディ底面にぶら下げるような形で取り付ける。天地を逆にして撮るようにしたのだろうか。
さて、ストロボを取り付けられるようにアタッチメントを作るのも面倒なので、そのままの状態で屋内撮影をしてみた。この方が絞りを開けて撮ることになり、よりレンズの特徴が現れるのではないかと思ったからだ。作例はだいぶ昔のモーターショーでの一コマである。屋内といってもそこその明るさがあるので、絞りを開ければ手持ち撮影ができる。それでもスローシャッターにならざるを得ないので、ぶれないように慎重にシャッターボタンを押す。
このカメラ、シャッターが開いてからさらにボタンを押し込まないと次のコマの巻上げができない。内部の機構を動かすために押し込むのだが、シャッターの動作音より大きな音がする。シャッターが「コットン」と動き、続いて内部の送り機構が「ガシャン」と動く。コットン・ガシャン・・・どうもこの感触、なじめない(笑)。
まあ何はともあれ、ちゃんと写ればホワっとした感じに仕上がる。う~ん。やっぱり微妙。
投稿者 J_Sekiguchi : 2010年09月03日 10:00