STEREO CLUB TOKYO

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湿原の植物

 車山高原で、山を降りて疲れきった後の話。日没までまだ時間があるので、湿原に行ってそこの植物を撮ることにした。湿原というのは簡単に言っちゃえば浅い沼に草やコケが生えまくり、枯れた植物が積み重なっていった水はけが悪い土地である。積み重なった枯れ草は、気温が上がらないため分解しきれずに炭化し、泥炭になってゆく。
 湿原は標高の高い土地によく見られるが、これは年間平均気温が低いためである。南の土地になると、標高が高くても年間平均気温が高くなるので湿原が維持できない。だいたい中国地方あたりに南限があるらしい。
 こういった日当たりがよくて水が豊富にあるにもかかわらず、気温が低く、土地の養分が低い環境では珍しい植物が繁殖している。湿原でよく見られる食虫植物は養分を補うために虫を取るのだと聞いたことがある。
 そういうわけで、普段は見ることのない植物がたくさんあるだろうと考えた。ただ、僕は植物の専門家じゃないし、事前に調べておいたわけでもない。とにかく、珍しそうなもの、きれいなものをステレオ撮影することにした。
 整備された遊歩道を歩き、ここから撮影する。湿原の内部に足を踏み入れてはいけない。それは安全のためではない。踏み固められた場所は普通の植物が根を下ろしやすく、湿原の草原化が進んでしまう。湿原の保護のため、遊歩道以外を歩くことはいけないことなのだ。それでも、遊歩道からでもたくさんの植物を観察することができる。
 日没が近くなり、そろそろ引き上げようかとしたとき。カメラのシャッターダイヤルを見ると1/125sになっている。しまった!どこかでうっかりダイヤルを回してしまった。1/60sでないとストロボが同調しないのだ。結局、湿原で撮ったフィルムの半分がボツになった。デジタルでもフィルムでも、撮影前の機材点検。これ、とっても大事です。

高山植物2.jpg

投稿者 sekiguchi : 2010年05月28日 10:00

マツムシソウとタテハチョウ 

 高山植物というのは日常ではあまり触れることのない花が咲き、観賞の対象として面白い。シーズンオフのスキー場など、夏場の観光用にリフトを運転しているところもある。こういったものを利用すると楽である。本格的に山に登る装備をしなくても、撮影機材が多少あっても山の上のほうに行くことができる。山を徒歩で降りながら撮影するというわけだ。
 だいぶ前になるが、長野県の車山高原に行くことがあった。初夏のさわやかな風が吹く中、ステレオ撮影機材を担いでリフトに乗った。山々が見渡せ、雲がたなびき、いい気分である。リフトから眺める足元には、色とりどりの花が咲いている。あれもこれも珍しい。リフトを降りたら順番に撮影しよう。撮影意欲が涌いてくる。
 だが、リフトを降りたとたんに気がついた。予備のブローニーフィルム全部を車の中に置き忘れてきたのだ。機材の準備をするときに、10本入りの箱ごと座席の足元に置いたのだ。日が当たって温度が上がらないようにと一時的に置いたのだ。それをバッグに入れ忘れた。リフトを降りたとたん、記憶のスイッチが入ってそのときの記憶が鮮明によみがえったのだ。
 下りのリフトに乗ってフィルムを取ってこようか、とも思ったが、とりあえず手持ちのフィルムで撮影しながら降りると決めた。これがいけなかった。スキーで降りるのなら1分もかからない。そんな記憶が判断を誤らせた。撮影しながら徒歩で降りると思ったより時間がかかる。1時間歩いて半分しか消化できない。こんなに時間がかかるとは思わなかった。
 カメラのフィルムカウンターを気にしながら撮影するのは疲れる。ようやく下まで降りきったときには疲れ果てていて、フィルムを持ってもう一回登る気にはならなかった。一休みして、別の撮影スポットで気分を変えることにした。
 デジタルでもフィルムでも、撮影前の機材点検。これ、とっても大事です。

高山植物1.jpg

投稿者 sekiguchi : 2010年05月25日 10:00

セルフタイマー

 自分の姿も一緒に写真に写りたい、そんなときに使うのがセルフタイマーだが、リアリストをはじめとしてセルフタイマー機構が備わったステレオカメラは皆無だ。いや、たぶん皆無だと思う。どうだったかなー。見たことがない。
 では、そういう目的でステレオ撮影ができないかというとそんなことはない。後付のセルフタイマーというのがある。これは子供の頃にウチにもあった。セルフ機構のないカメラにレリーズネジを使って取り付けるもので、ぜんまい仕掛けで動く。セットレバーを回してスタートボタンをスライドさせると、内部でガバナー機構がジーっという音を放ちながら作動する。セットレバーが定位置にくると、シャッターを押す棒が繰り出されてシャッターが切れるという仕組だ。
 レリーズの取り付け部分が二重のネジになっていて、押し棒の繰り出し量をカメラに合わせて調節できるようになっている。注意するのは、この押し棒はぜんまいの力で無理やり押すので、よく調整しておかないとカメラのシャッター機構を壊しそうな勢いで押しまくる。また、用心しすぎて繰り出し量が少ないとシャッターが切れない。
 子供の頃はおもちゃにして、歯車の音を楽しんでいたが、その時のものはもうない。こんなもの、昔のものを中古で丹念に探さねばならないのかなぁと、姿かたちを思い出していると、まだ現役で作られて販売されている。早速購入してみると、形もほとんど一緒。おもちゃにして遊んでいた頃の記憶がよみがえる。こういうものは一つあると便利だ。
 しかし、タイマーだとなかなかシャッターのタイミングが合わないというご意見もあろう。こういう場合はエアレリーズがお勧めだ。5mほど離れて、自分でシャッターを操作することができる。チューブを継ぎ足せばさらに離れて撮影もできる。それにしてもこのエアレリーズのポンプ、空気圧でぴょんぴょん動くゴムのかえるちゃんに付いているヤツに似ている。

セルフタイマー.JPG

投稿者 sekiguchi : 2010年05月21日 10:00

露出計の話・再び

 露出計は大きく分類して2種類ある。反射光式、つまり被写体の明るさを直接計測する方式は今やどのオートマチック・カメラも採用している。この方式に慣れてしまってから全く方式の異なる入射光式の露出計を使うと、こんな大雑把でいいのかな?という感じで戸惑うだろう。もっとも、デジカメをフルオートで使っている限りは知る由もない世界なんだが。
 一眼レフで採用されているTTL露出計は反射光式を発展させたものだ。レンズを向ける方向によって数値がめまぐるしく変化する。数値を追いかけながら、光を読んでいる気分になる。被写体の明るさを分析している気分になる。
 一方、入射光式露出計が示してくれる数値はそんなにめまぐるしく数値が変わらない。被写体に降り注ぐ光の強さを教えてくれるからだ。だから同じ季節、同じ時刻の同じ方角を向いた屋外の露出というのは大体同じ。
 感覚的に、細かく数値を教えてくれる反射光式のほうがいいンじゃないかと感じても、使い比べると入射光式を使ったほうがきれいに撮れている。白いものは白く、黒いものは黒く写る。ステレオではこちらのほうが合っている。見た感じそのままを写そうと思えば、入射光式の方が性に合っているのだ。一眼レフの多くは、画面の平均の明るさがある基準のグレーと同じ明るさになるように数値を示している。露出計の方式で、使い方は全く異なるのである。
 僕は、日中屋外でのリアリストの相棒にはスタジオデラックスが一番だと思っている。この露出計にはオプションで直読式スライドという測光部のマスクがあって、フィルム感度とシャッタースピードを決めておけば絞りの値を針が指してくれる。でも、リアリストの国際系列のシャッターに合うようには作られたものがない。そこで黒ケント紙を使い、光の通る穴の大きさを調整して自作してみた。ISO・100、1/200secで絞りが直読できるスライドだ。なかなか便利です。

スタデラ.JPG

投稿者 sekiguchi : 2010年05月18日 10:00 | コメント (2)

除虫菊の里

 夏が近づくと、あのいやな虫、蚊が飛び回る。奴らはほんの少しの水溜りさえあれば繁殖する。バケツに水を入れて外に放置しておこうものなら、ボウフラがたくさん涌いてくる。それにしても、奴らはどうやって冬を越しているんだろう。
 蚊を退治するのに今ではいろいろと殺虫成分を配合した商品が売っているが、僕らの世代で馴染み深いのはやはり蚊取り線香だろう。少々煙たいが、ブタを模った線香置きなど趣深い。線香の渦巻き型、昔は手でこねた線香のモトをひも状にして巻いて形作った。燃焼時間を長くする工夫だという。この線香のモトに、蚊が嫌う殺虫成分を錬り込んであるというわけだ。
 蚊取り線香のパッケージには菊がデザインされている。そういえば子供の頃、蚊取り線香には菊が練り込んであると聞いた。だから強烈に濃い緑色なのか、と納得したのを思い出す。だけど、仏壇の線香も含めて、線香は緑色が普通だったじゃないか。やはり、なぜ緑?・・・まあ、それはさておき、練り込んでいる菊は普通の菊ではなく、殺虫成分を多く含む除虫菊であるということを最近になって知った。今は大量生産のために合成された殺虫成分が使われているが、今でも昔ながらの蚊取り線香がある。
 この除虫菊の花畑が瀬戸内海の因島で見られるという。5月ごろが見ごろだというので行ってみた。日の当たる斜面を利用して除虫菊が植えられている。小さな白い花が一面に広がっていて美しい。こういう花畑を立体写真にすると面白い。立体で見ると、一つ一つの花が分離して、どの花も主張しているように見える。これが線香になるとは想像もつかない。
 それにしても瀬戸内海というのはいつ行っても波が穏やかだ。静かな海に小さな島々が浮かぶ。風は穏やかで波の音もせず、海はまるで大きな湖のようだ。ふと見上げれば、除虫菊の咲く丘から島々を結ぶ吊り橋が見える。これだけ美しい風景がありながら、派手な観光地にならずに島の暮らしが残っている。のんびりと海からの風を身に浴びるのが心地よい。

除虫菊.jpg

投稿者 sekiguchi : 2010年05月14日 10:00

対馬 

 たまたまある用事で、対馬に行くことになった。九州と朝鮮半島のあいだにある南北に細長く伸びる島。あらためて地図をよく見ると、朝鮮半島と九州のちょうど真ん中辺りに位置していて、朝鮮半島までは50kmほどしか離れていない。地理的な関係から、大陸との交易の拠点になったであろう事は歴史を調べるまでもなく容易に想像できる。
 日帰りの用事であったが、時間的に余裕があったので万松院に行ってみた。ここは約400年前に対馬藩主である宗家が建立した寺であるという。ここでいろいろ聞いたのが、宗家は当時の朝鮮王朝との交易で中心的な存在であり、重要な役割を持ってそれに仕えたこと、山手には代々の墓が建立されていて、墓所の内部には財宝が隠されている、とか。また、その墓は朝鮮王朝の文化を取り入れた朝鮮様式であるとか、墓石が重すぎて墓荒らしの盗賊が途中で諦めた跡がある、とか。
 墓所までの階段には和風の灯篭が並んでおり、ここ全体が朝鮮との折衷様式になっているという。そんな話を聞きながら、やっぱり僕は歴史が得意じゃないと思い知らされた。この辺の歴史は学校でも習ったのだろうが、ちっとも憶えていない。
 せっかく立ち寄ったのだから、階段を登って宗家の墓所にお参りに行ってみた。驚いたのは墓所の周りに杉の巨木が並んでいる。木の勢いも良く、幹が太い。これだけ大きな杉というのも珍しい。おそらく樹齢は1000年を超えているのではないだろうか。万松院が建立された以前からここにいたに違いない。
 日が暮れる前には島を後にしたのだが、昼食の定食で出た刺身が最高においしかったのを思い出す。泊りであるなら、夕食には刺身の舟盛をオーダーしたことだろう。対馬海流が流れるこの島は、漁場として最高の場所にある。とびきり鮮度のいい魚が手に入るのだろう。次に行く機会があったら、極上の刺身醤油を持ち込んで旬の魚を存分に味わう、と決めている。

対馬.jpg

投稿者 sekiguchi : 2010年05月11日 10:00

鉱物の世界

 水晶の結晶のような、透明で規則正しい形をした鉱物が地中で作られた、というのはなんとも不思議なものである。地面を構成しているのは地味な石ころや砂ばかりだが、これらも美しい鉱物たちも、組成の成り立ちは同じようなものである。地殻を構成する元素が、何らかのプロセスを経て結晶の形になったものが美しい鉱物として現れる。
 特に硬いものは磨かれ、宝石として扱われるが、その原石とか、宝石としては扱われない鉱物を目にすることは少ないかもしれない。鉱物を扱っている店というのもあるが、扱う種類が多くはないし、特にきれいなものだけ売っているので高価である。
 そんな中、毎年新宿で開催されるミネラルフェアというのがあり、ここに行くとその規模に圧倒される。国内外から多くのディラーが集まり、鉱物、化石、隕石などなどが展示販売されている。値段も手ごろなものからあり、買わずとも一日中眺めて回っても面白い。聞いたこともない鉱物に会えることもある。僕にとっては、手のひらほどの小さな結晶を値切って買うのがいつもの楽しみだ。
 さて、購入した鉱物はルーペで拡大してみると一層面白いのだが、ルーペでの観賞は片目になる。両目でステレオ視したら面白いだろう、ということで拡大したステレオ写真を作ることにした。これにはフィルム一眼レフを使い、接写リングに標準レンズをリバースで取り付け、特に倍率を大きく設定した。慎重にフォーカスをあわせ、1枚目を撮影したら鉱物をわずかに横にスライドしてもう一枚を撮る。これで視差のある左右画面が撮れたはずである。スライドの幅はテキトウだ。
 現像してマウントにセットすると、実に自然な感じで立体視できるではないか。鉱物結晶を拡大してステレオ観賞するのはオモシロイ。こんなものがどうやって作られたのか。地底というのは本当に神秘の世界である。ステレオ観賞はオモシロイが、写真だといろいろな角度で見られない不満が出てきた。やっぱり実体顕微鏡が必要かな。

化石.jpg
 △ミネラルフェアの化石ブース 
鉱物1.jpg

投稿者 sekiguchi : 2010年05月07日 10:00

パノラマカメラ

 ちょっと変わったカメラのカテゴリーということで、たまにはパノラマカメラの話題を。普通の画面の上下をトリミングしてもパノラマ風になるが、強烈な画角は得られない。本格的に驚異的な画角で撮りたい。レンズを横方向にスイングする本物のパノラマカメラが欲しくなった。さて、現行品として販売されているのはウクライナ製のホリゾン202である。ebayで検索すると出てくるのだが、入札する段になって迷いが出てきた。こんなプラスチック風のカメラで楽しめるだろうか。
 やっぱりクラシックでいこうというわけで、ホリゾンの原型となったHORIZONTをebayで手に入れることとした。この手のものは光線漏れがひどく発生すると聞く。それを修理するのも面白いぢゃないか。しばらくマーケットをウオッチして、前期型が出ていたので落札した。こいつはソ連時代のものである。はるばるロシアから送られてきた。さっそく動作確認をして問題が無いので試写してみると、案の定光線漏れがひどい。よく調べてみると、ボディとレンズユニットの隙間を遮光している部品が劣化していることがわかった。これを交換するには底蓋をあけてガバナー機構を外さねばならない。
 苦労して分解し、フィルムパトローネの口にある毛の生えた(?)遮光パーツを使って再生した。困ったことに、組み立てるときに部品がうまく合わない。加工精度が悪いのに、無理やり組まれていたから分解した後で位置が合わないのだ。部品を加工修正してなんとかしたが、ガバナーがうまく動くように組むのが大変だった。ついでにファインダーのクリーニングをしようとしたが、分解できない。接着してあるので、お湯で煮て無理やり分解(笑)。ついでに液漏れしていた水準器も分解再組立した。
 修理後は光線漏れも解消して快調。キリル文字の機体も気に入っているし、脅威の画角を楽しんでいる。プリントはスキャナーで取り込み、ネットプリントを使ってパノラマプリント指定で仕上げると安くて簡単だ。おもしろい。

horizon.JPG ファインダー.JPG

投稿者 sekiguchi : 2010年05月04日 10:00