STEREO CLUB TOKYO

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主の刻印

 初めてリアリストを手に入れたのは、銀座にあるとある中古カメラ店だった。そのときは、ステレオカメラを触るのも初めてであったし、ここまで古いカメラを操作するのも初めてだったのだ。だいたい、中古カメラ店に行くなんていうことがほとんどなかった頃のことだから、ショーケースから出してもらった時はどうしたらいいのか大いに悩んだ。
 カメラの持ち方で、お店の人から「こんなトウシローに売れるかい」なんて思われるんじゃないかとビクビクだ。ファインダーを恐る恐る覗いたり、ちょっとダイヤルを回してみたり。正直言って、こんなカメラで撮影できるのかな?と思い始めてきたところ、お店の人がニコニコと説明してくれる。説明を聞いて、何とか使えるかな、と思い始めてきたのだ。
 このときはリアリストにレンズがF2.8とF3.5のモデルがあることなんて知らなかった。店には両方置いてあったんだが、とりあえず安くてきれいな方のF2.8を見せてもらったのだ。買おうと決める直前に、F3.5の方を見せてもらおうとしたら、お店の人はF2.8のほうがいいよと言う。それで、初めて買ったのがF2.8だった。店の奥のほうからカメラケースとストラップを出してきてくれて、値段はそのままでおまけに付けてもらった。嬉しかったなぁ。
 それにしても、なぜF2.8の方が安かったんだろう。前の持ち主の名前だろうか。カメラのトップカバーに刻印があった。“TOPHAM”と丁寧に刻印された文字は、買うときにはあまり気にしていなかったのだが。これが理由か。
 前の持ち主は今頃どうしているだろうか。僕が手放した後は、一体誰の手に渡るんだろうか。この刻印を見るたびにそんなことに思いをめぐらせる。アラジンの魔法のランプのように、いろんなご主人様の手を渡ってゆくのだろう。この不思議な道具は、もう少し僕のところで召し使えて欲しいと思っている。磨いてやれば、魔法が現れるかもしれない。

刻印.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2010年09月17日 10:00


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