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コダクロームK335
巷では銀塩写真の終焉とか、デジタルの勝利とかひとしきり話題になった。だいぶ落ち着いた感じではあるけど、フィルムの需要が先細りになるのは時代の流れだ。止められない。ただ、今のところフィルムの長所をデジタルが全てカバーしているとは思えない。ステレオ写真の鑑賞方法はその一つだと思う。ポジフィルムで鑑賞するステレオ写真の素晴らしさは、まだまだデジタルで再現できていない。だからといってフィルムとデジタルの優劣を議論することは、どんどん姿を変えてゆくデジタルが相手ではあまり意味がないようにも思う。僕はデジカメが鑑賞方法も含めてもっと本物になるまでフィルムで撮り続けようと思っている。そんな思いもあって、リアリストのメンテ師・イエロージャックが誕生したのだ。ここまでのコラムがリアリストユーザーの何かの役に立てば嬉しい。
さて、コダクロームの国内販売終了にショックを受けている諸君も多いだろうが、僕は秘蔵のコダクロームを2本持っている。どちらも1955年期限のフィルム。片方は20ペアのリアリストスライドが撮れるように長さを調整したステレオ専用(?)フィルム「K335」という珍しい1本だ。ステレオが大流行した名残、あるいは証人というべきか。もう使えない、いや、使わないのだけど、これを持っていると何故かいつまでもフィルムで撮り続けたいという気持ちになるね。デジタルデータに変換するのは後でいい。フィルムがあるうちはフィルムで撮る。やっぱりフィルムで撮るのは楽しい。もしフィルムの時代が終えたとき、まだステレオデジカメ&鑑賞システムが世の中に登場していなければ、僕はその時本当に寂しいと思うだろう。
投稿者 sekiguchi : 2007年03月25日 01:18 | コメント (2)
ヨーロピアン改造の実際(2)
スプロケットギアの軸受位置をシフトする部品をヤスリで仕上げる。もとの軸受穴はハンドドリルなどでこの部品が入るように広げておく。部品を埋め込むには2液硬化型のエポキシ接着剤を使う。充填材の役目も果たすので便利である。硬化する前に軸の代わりの棒材を通し、軸が斜めにならないように微調整をする。これを怠ると組み立てるときに軸がセットできない。もし接着に失敗したら、レールごとお湯で煮れば剥がすことができる。
次に行わなければならないのが、フィルムレールのマスクを広げる作業だ。レールは鋳造アルミなのでヤスリで削りやすい。あらかじめ広げる寸法を測り、マーキングして削り過ぎないように注意する。フィルム送りとステレオベースの関係で画面横幅を広げられる寸法には限度があるが、マウント時の調整しろを考慮して幅31mm程度にするのがベストだろう。削った面は最後につや消し黒色塗装をして仕上げる。
今回の改造でもう一つ忘れてはならないポイントがある。巻き上げの制御は撮影者が行わなければならないので、そのインジケーターとなる指標を枚数カウンターに標示しなければならない。1-3-1-3の間隔で印をつければよいだけだ。作例ではボディの全面ブラック化の塗装を施すことにし、カウンター指標をパテ埋めして指標を作り変えている。このようにして視認性を良くしても、3回巻上げをするべきところの途中で撮影してしまう失敗が発生しやすい。これを防止するため、シャッターボタンのロックを巻上げ時に解除するパーツの一部を曲げ加工し、自動解除ができないようにした。撮影者にとっては動作が増えるが、巻き上げて枚数指標を確認し、多重露出ノブを引いてシャッターロックを解除してスタンバイ状態となる。これでほぼ撮影ミスは防止できる。
リアリストのシャープなレンズをヨーロピアンで使えることの魅力は大きい。
※つや消し黒のウレタン塗装とトカゲ革への貼り替えをしている。
投稿者 sekiguchi : 2007年03月18日 11:44
ヨーロピアン改造の実際(1)
まず改造のベースとなる機体だが、このコラムで紹介したようにF3.5レンズのモデルではイメージサークルが小さいため、画面を拡張した場合にこれをカバーできない。四隅が暗いどころか、両端が円弧状に縮小された画面になってしまう。改造はF2.8レンズのモデルをベースにする。このレンズはイメージサークルが十分大きく、周辺の画質を確保したままヨーロピアンフォーマットに拡張することができる。
次に、前に紹介した通りスプロケットギアを歯数7のものに交換しなければならない。これを新しく作るのは大変である。ジャンクカメラからスプロケットギアを入手して使うのがやりやすい。しかし歯数7というのは特殊であり、多くの35mm版カメラは歯数8のギアを使っている。1ロールあたりの撮影枚数が減ってしまうが、ここは歯数8で妥協しよう。ジャンクカメラからの入手だからスプロケットの軸径が合わない。小さい場合は軸が入るように穴径を広げ、大きい場合は銅パイプを加工してスペーサーにする。さらにギアの厚さをオリジナルのものと同じにするため切断・研削をする。ここまでの加工は工作機械が無くてもハンドツールで対応できるはずだ。
もう一つの難関が、歯数を変えたことによりギアの直径が小さくなり、そのままセットしたのではフィルムにかみ合わない。軸位置を手前に3mmほど移動しなければならない。これが実に厄介で、今回の改造のキーになる。加工のしやすい銅合金を使い、偏芯した軸穴を持つ部品を作製した。工作機械があれば簡単だが、ハンドツールでも精度良く作ることができる。銅合金のパイプを組合せ、太いパイプの中に細いパイプを配置してロウ付けする。これをカットして軸受部品にする。オリジナルの軸受穴をハンドドリルで広げ、この軸受部品を埋め込むことで軸位置を移動させることができる。(つづく)
投稿者 sekiguchi : 2007年03月18日 11:41
ヨーロピアン改造の問題点
ヨーロピアンフォーマットはリアリストよりも横に2パーフォレーション長い。このため、7-Pとか、P-7とも呼ばれる。フォーマットの違いによるカメラ機構の決定的な違いはフィルム送りの制御である。リアリストでは左右の画面の間に2コマ分のスペースを開けているため、巻き上げは常に10パーフォレーション分で制御すればよい。歯数10のスプロケットが1回転することで1サイクルの巻き上げ制御をすればよいので、機構を単純化することができる。これを14パーフォレーション制御にすれば同じ機構でヨーロピアンが作れるが、左右コマ間隔が広すぎ、ステレオベースが長大化する。これを回避するためにフィルムの送りをΩ型にすればコマ間隔を縮小できる。TDC・Vividはヨーロピアンフォーマットを前提に設計され、途中でリアリストフォーマットに変更されたという説がある。そうであればΩ型に近いフィルム送りはこのなごりかもしれない。
さて、ヨーロピアンカメラは左右のコマ間に1コマ分のスペースしか取れないため、フィルム送り制御は7-14-7パーフォレーションを繰り返す複雑な機構を内蔵せねばならない。リアリストを改造する業者は、この機構を追加しているようだ。これを個人レベルで行うには設計・部品調達も含め非常に困難なものになる。しかし、見方を変えてこの面倒な制御を撮影者が手動で行えば機構は非常に単純なものになる。セルフコッキングではないから、歯数7のスプロケットギアに交換して1回-3回-1回の巻上げ操作を行えばいいだけだ。撮影者がフィルム送りカウンターの刻印を見ながら巻き上げのコントロールをする。リアリストをヨーロピアンに改造するための技術的ハードルは、これだけで個人レベルの改造を実現できるまでに低くすることができる。では、次回は実際に改造した要領について紹介しよう。
投稿者 sekiguchi : 2007年03月18日 11:38
ヨーロピアンVSリアリスト
アメリカを中心に広まったリアリストフォーマットカメラは中古マーケットでの入手性もよく、観賞に必須のビュアーも種類が多く、とても使いやすいシステムである。リアリストのほぼスクエアに近い画面は、幅広い被写体にマッチするフォーマットでもある。一方で、ヨーロッパを中心に広まったヨーロピアンフォーマットカメラは、数は少ないものの、横長の画面が風景などの作画に向いている、より臨場感を得るのに向いている、などの理由で人気が高い。ただ、このフォーマットのカメラは入手性が悪いばかりでなく、リアリストに比べて次のような制約もある。
・FED-STEREOもしくはFED-BOY
オートマチックカメラであり、絞り、シャッタースピードの自由な選択は不可能。
・初期型イロカステレオ、ベルプラスカ
距離計がなく、目測でフォーカシングをしなければならない。
・べラスコープf40
筐体内の内面反射処理が悪く、フレアを生じやすい。また、シンクロ接点が特殊であり、ストロボ撮影が難しい。
これらのカメラにはリアリストにはない機能や、独特の素晴らしい描写をするレンズであるなど、決して優劣を比較するべきものではない。しかしリアリストと同じ撮影設定の自由度を持つヨーロピアンフォーマットカメラが存在しないのも事実である。であるならば、リアリストをベースにヨーロピアンフォーマットへの改造ができないかと考えた。海外では委託改造として引き受ける業者もあるらしい。世の中にあるのならできるはず、という意気込みで、個人ベースで改造する工夫をしてみた。十分実用に耐えるものができたので次回に詳細を紹介しよう。
※写真のベルプラスカは、距離計を取り付けて使いやすくした状態
投稿者 sekiguchi : 2007年03月17日 15:39